国際共同研究

1.5 Country Oldest Old Project (5COOP)

百寿者研究は日本のみならず、アメリカ、イタリア、中国など世界中で行われています。百寿者のうち、日常生活に介護が必要な人の割合や、認知症の割合を正確に把握し、国際比較することは、世界中で進む高齢化への対策を考えるうえで極めて重要です。しかし、これまでの百寿者研究では、国によってADLや認知機能の測定方法が異なっていたため、国際比較を行うことが困難でした。そこで、2010年に、フランスの人口統計学者であるJean-Merrie Robine教授が中心となり、フランス、スイス、デンマーク、スウェーデン、日本の研究者が協力し、共通の研究プロトコールに従って百寿者のADLや認知機能、余命の国際比較研究を行う5 Country Oldest Old Project(5COOP)が企画されました。日本では日本大学総合科学研究所の齋藤安彦教授が代表となり、大阪大学人間科学研究科、慶應義塾大学医学部百寿総合研究センター、沖縄国際大学および東京都健康長寿医療センター研究所がプロジェクトに参加しています。現在、高齢化が進むアジア諸国からシンガポール、台湾、タイなどがプロジェクトに参加する準備をしています。

【参考文献】

Robine JM, Cheung SL, Saito Y, Jeune B, Parker MG, Herrmann FR. Centenarians today: new insights on selection from the 5-COOP study. Curr Gerontol Geriatr Res 2010; 2010: 120354. (PMID: 21423541; DOI: 10.1155/2010/120354)


2.百寿者の白血球テロメア長測定における英国ニューカッスル大学との共同研究

テロメアは遺伝子の先端部分にある繰り返し配列で、細胞分裂のたびに少しずつ短くなるため、細胞老化の指標と考えられています。これまでの疫学研究から、白血球テロメア長は加齢や、心血管病・糖尿病患者で短くなることが報告されています。私たちは、テロメア研究で世界をリードするニューカッスル大学加齢研究所のThomas von Zglinicki教授と共同で、百寿者684名(うち105歳以上407名)とその直系子孫と配偶者、および85-99歳の高齢者からなる計1,554名を対象とする大規模高齢者コホート研究を実施しました。長寿に寄与すると考えられる生物学的領域である、貧血、糖・脂質代謝、臓器予備能(肝機能および腎機能)、炎症、細胞老化(テロメア長)の各領域のバイオマーカー(血液中の生物学的指標)を測定し、健康長寿の指標(余命、日常生活自立度、認知機能、多病)との関連を分析しました。その結果、一般の高齢者では加齢に伴ってテロメア長は短縮しましたが、遺伝的に百歳に到達する確率が高いと考えられる百寿者の直系子孫(血縁のある子供)はテロメア長が「より若く」保たれており、実際の年齢が80歳でも60歳代に匹敵する長さでした。同様に、105歳以上の超百寿者でも比較的長いテロメア長が保持されていました。つまり、テロメア長が短縮しないことは遺伝的な健康長寿の要因である可能性が示されました。
さらに、各領域のバイオマーカーのうち、炎症だけが85-99歳、100-104歳、105歳以上のすべての年齢群において有意に余命と関連しました。また、どの年代群においても、炎症マーカー値が低いグループは、炎症マーカー値が高いグループに比べ生活機能や認知機能も高いことが判明しました。さらに、百寿者の直系子孫では、炎症マーカーが低く抑えられていることもわかりました。マウスによる研究によって炎症が老化を促進する要因であることが証明されたのはごく最近のことですが、ヒトの老化過程における関連性を証明することができました。
今回の成果を基に、安全に、老化に伴う炎症を抑える薬剤が開発されれば、高齢者の生活の質を大きく改善する可能性があります。さらに、なぜ老化に伴って炎症が起こるのか、免疫の働きや腸内環境、食事や栄養摂取との関連を解析することにより、新しい健康増進法の開発につながることが期待されます。

【参考文献】

Arai Y, Martin-Ruiz CM, Takayama M, Abe Y, Takebayashi T, Koyasu S, Suematsu M, Hirose N, von Zglinicki T. Inflammation, but not telomere length, predicts successful ageing at extreme old age: a longitudinal study of semi-supercentenarians. EBioMedicine 2015; 2(10): 1549-1558. (PMID: 26629551; DOI: 10.1016/j.ebiom.2015.07.029)